【小説】発光体

 

 

 

夜道でたまたま見つけた、それだけだった。
別に拾って帰ろうとしたわけではない。
ちょっと抱き上げて、できることなら頭を撫でたり嗅いだりして、ひとしきり愛でたら植え込みに戻そうと思っていた。

「このご時世なんだから、採用されたことをまずは有難く思ってもらわないと」

入社初日から昼休憩がなく、サービス残業が三時間という会社に入ってしまった。上司は上司で会社に連泊しているらしく、まったくふざけんなよなぁと悪態をつきながら並べた椅子のベッドを拵え、カップ麺の汁の染みが浮いた毛布をかぶった。三時間が過ぎて、帰れたわけではない。別の上司の酒盛りとカラオケに付き合って、結局0時を回って今だ。
私は、ほんの少し癒されたいと思っただけだった。

 

見つめ返さなければ良かったのかもしれない。
はじめ、腕の中でその生き物はじっと私を見た。信じられないくらいにおとなしい子だった。小さい頃、動物園で見たときはあんなに獰猛に見えたのに。瞳は練りたての水飴のようにきらめき、見る角度によって色が全く異なった。
その瞳が、ある瞬間にブルッとふるえた。気のせいかと思ってもう一度見てみる。
と、やはり動いた。その刻まれている一定のリズムに、
「アラーム」という言葉が不意に浮かんだ。

 

そのふるえはまもなく全身に伝染する。
その子の体毛は皮膚の上で動き出し、縞模様の隊列をなした。きちんと並んだ毛は敬礼するように几帳面に尖り、高速回転を始めた。軸のない、瓶の中で暴れる蠅の行き当たりばったりの回転だ。
私の腕は音もなく裂かれていった。
薄いところはさりげなく剥けて赤らみ、深いところは熟れきったアケビのようにぱっくりと割れた。問答無用で血があふれた。
それから、その子は光を放った。どうやら回転に準じた発光らしい。みるみるうちに私の腕が、からだが、光にとけていく。次は光そのものが爪になった。
こういうとき、普通は手を離すのだろうか。
反射的に、灼けた鉄瓶に触れたときのように。ただ、頭の端に残っていた芥子粒ほどの躊躇が、私の体を縛っていた。
その光が私には何故か、泣いているように思えたのだ。

 

ーーほどなくして、回転が収まってきた。光も徐々に弱まり、思い出したかのように夜が戻ってくる。
私は倒れることさえ忘れていた。
痛み、怠さ、熱。そのいずれも受け止めきれないでいる中、その子はまるで憑き物から離れたようにきょろりとなり、私の頬を舐めあげた。ちいさくて温い、それ単体で生き物のような猛烈な舌は、痛みを和らげるのに何の効果もない。逆にひどくしみる。
明日も仕事だった。
けど、泣きやんだようでよかった。

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